勤務時間が終わり部屋に戻ると
ピピッという電子音が部屋のパソコンに通信が入ったことを伝えていた。
パソコンの前に座って通信をオンにすると
スピーカーから「ー!」とよく聞く声がして想定内の相手に溜息と共に彼の名を呼んだ。
「プラントはどう?」
『丁度今は春だって!比較的あったかいよ!』
「そう、よかった。」
楽しそうにはしゃぐラスティに再び溜息を零した。
彼が地球に降りたのは一昨日で、クルーゼ隊は五日間の休暇をもらったそうだ。
は二日程遅れての休暇で明日プラントに降りることになった。
五日間も休暇のあるラスティたちは実家に帰りパーティーをするらしいが
の休暇は三日だけであるしラスティにパーティーに来ないかと誘われたが気が引けるので
三日間は一人でのんびり過ごそうと決めていた。
『明日何時にプラントに来る?』
「9時のシャトルよ」
『じゃあそれくらいに向かえに行くから』
「来なくていいわよ・・・。」
『ちょっと会うだけだよ。折角の休みだしゆっくり会いたいから』
たしかに彼の気持ちも分からないこともない。
ヴェサリウスでは休憩時間もなかなか合わないし、
夜は夜で事を済ませて寝るだけだ。
そして朝起きればどちらかはもういない。
そう思うと偶にはゆっくりするのも良いかもしれない。
「そう、だったら。」
『じゃあ待っててね。』
「わかった。」
最後にお互いおやすみと通信を切った。
翌日、9時のシャトルでプラントに降りると
時間通りラスティは基地の前で待っていた。
ラスティの隣には彼の車らしき高級なオープンカーが停めてある。
「流石、最高評議会議員のお坊ちゃま」
「いい加減その言い方やめてよ。」
文句を垂らしながらラスティは助席のドアを開けた。
「ありがと」
が乗り、ドアを閉めるとラスティは運転席の方にまわった。
ラスティのこういうところは関心する。
評議会議員の息子だけあって礼儀やマナーがしっかりしているのは
幼い頃から教育されてきたからであろうし、
こういうのは意識をしてやるとぎこちなかったりボロが出たりするので
それが自然にできるら彼らは紳士なのだと思う。
こういうところで彼らと自分の差を嫌な程思い知る。
「そういえばさ、今日の夜ニコルがプライベートでピアノの演奏会をやるんだよ。」
「へぇそうなの。楽しみね。」
ラスティはそうだね、と頷いた。
たぶん、クラッシックなどを好まない彼はあまり興味がないはずだ。
「あ、それでねも連れてくって言ったらニコル喜んでたよ。」
「はあ?なんで、私一言も行くなんて言ってないわよ!」
「え〜来ないの?ニコルがっかりするだろうなぁ」
きっとラスティはこう言えば私が行かざるをえないのを確信していて業とやっている。
「じゃあ行くわよ!でも私、ドレスも何も持ってないからね!」
ラスティはそれが想定内のようにまかせて、とにっこり笑った。
連れてこられたのはラスティの実家で、車を降りるなり
冥土服を着た数人の女性と、黒のスーツの男に出迎えられた。
何か落ち着かない感じがするまま、ラスティに手を引かれて屋敷に入る。
「お父さんは?」
「仕事。あまり帰って来ないよ」
その言葉に心が痛む反面、気付かれないように安堵の溜息を漏らした。
「そういえば演奏会って誰がいるの?」
「ミゲルにイザーク、ディアッカ、アスラン、と幼馴染も来るらしいよ。後はニコルの両親」
「ニコルのご両親もいるの・・・」
が心配そうに表情を曇らせると、ラスティは大丈夫!との肩をポンと叩いた。
「さぁ始めよっか!はいはいは座って!」
強引に大きな鏡の前に座らされると、先程の冥土に取り囲まれる。
「やっちゃって!」
ラスティの言葉に冥土たちは「では」とにっこりと笑った。
「お綺麗ですね〜!ここまでお綺麗だと私達もやりがいがありますわ。」
「そう、ですか・・・」
「奥様がとても美容を大切にするお方でしたので、私達は美容のプロフェッショナルですの」
「へえ・・・すごいんですね」
坦々と髪型とメイクが仕上がっていく。
「それにジェレミー様は奥様と離婚されておりますし、ラスティ様お一人なので」
まるで宝の持ち腐れですのよ、と冥土たちは声を合わせて笑った。
ほぼ完成した頃いつの間にやらいなくなっていたラスティが
片手に布のようなものを持って部屋に戻ってきた。
「何それ?」
「のために買ったドレス!」
ラスティはホラ、と惚れ惚れするようにそのドレスを見せた。
シンプルで美しいシルエットを描くドレスは春らしい薄めのイエロー。
ウエスト部分と首の後ろのリボンはオレンジのシフォン生地になっていて
ふわりとしたスカート部分には上品で繊細な刺繍が施され
スパンコールと真珠が散りばめられている。
派手でセクシーなのを好むラスティには珍しいタイプのドレスだった。
ドレスに見とれるまま冥土に着せられ、鏡の前に立たされるとそこに写ったのは
セクシーすぎず可愛すぎず、言うならばほど良く甘くて純粋潔白な少女。
髪は上品に纏められ、高めのヒールはの細くて長い足をさらに美しく見せた。
「うん、完璧!」
そのの姿をラスティは少し遠くから眺めて満足そうに頷いた。
日も落ち、ニコルの家へ向かうラスティとはとうに演奏会の開始時間を過ぎていた。
「もう、これじゃ遅刻じゃない。」
「いいのいいの。遅れたほうが目立つからね」
「そういう問題じゃないでしょ・・・」
「そういえばドレスは気に入った?」
「てっきりラスティはやらしいドレスを選んだと思ってたから」
の言葉にラスティは笑うと、直に真面目な表情に戻りを見つめた。
「セクシーなドレスも良いけどさ、大事な人にはそういうドレスを着て欲しいんだよね」
そう言われ、顔が熱を持つのを自分でも分かった。
ニコルの家に着き、演奏会を行う広めのリビングに入るといつもの顔ぶれがあり、
ディアッカがからかうように口笛を吹いた。
いつもは軍服を着ている彼らしか見たことのなかったは正装姿にドキリとする。
よりも年下である彼らだが、こういう姿はもはや一人前の紳士であった。
ピアノの方から白のタキシードを着たグリーンの少年が近寄った。
「!」
「ニコル、遅れちゃってごめんね。」
「気にしないでください。それにしてもすごく綺麗ですね!」
「ありがとう」
「もこういう格好すると見間違えるよな。何処のお嬢さんかと思ったぜ」
ディアッカがちゃかすとはさらに顔を赤らめた。
「ふふ、綺麗でしょ。俺がドレス選んだんだよ」
「良かったですよ。正直がどんなドレス着せられて来るか心配でした」
以外にセンス良いんですね、とニコルが笑うと、どういうことだよ、とラスティは苦笑いした。
ニコルのピアノ演奏を2、3曲聴いたあと、ニコルの両親以外に、ディアッカやアスランの両親と
ラスティの父親まで来ていることを告げられて、はラスティに連れられ
社交辞令だと挨拶にまわった。
年を聞かれた際、23であると告げるとラスティの父は驚愕したが
「これからもよろしく」と頭を下げられは驚きつつも安心して体の緊張が解れた気がした。
演奏が一通り済むとアスランに幼馴染だというキラを紹介され、
キラも交えると皆でワインを飲み夜は更けた。