彼女と初めて会ったのは士官アカデミーでその時俺はまだ17だった。



男が大多数を占めるアカデミーで同期の女は彼女一人で

成績もそこそこな上、容姿も良いもんだから男たちの間で噂になっていたのを覚えている。




二つ年上の彼女はとても綺麗で19にしては大人の色気というか貫禄が漂い

同学年から先輩、下級生にまでも人気があり、華奢な躰で偶に見せる艶っぽい表情に男たちは直ぐに虜となった。





その中の一人であった俺はいつからか性的な憧れではなく

一人の軍人として憧れを抱くようになり既に赤服が確定しているも同然であった彼女を追って

毎日遅くまで勉強とトレーニングを欠かさなかった。








ある日、カリキュラムの一つの体術でトーナメント戦が行われた時、運が良いのか悪いのか初っ端からミゲルはと当たることになった。




身体のラインを強調するようなアンダーシャツ姿の彼女はアカデミー服の上から見るよりも更に細く

並んで見ると以外と小柄で、それでナイフ戦の順位は1位だというのでミゲルは心底から感心した。




見るからに軍人向きではない体型の彼女を相手に男が襲いかかるとは気が引ける思いがする。


それでも教官の始まりの合図でミゲルがに掴み掛かろうした瞬間、

それをいとも簡単にかわされて気付いた時にはミゲルは彼女の細い体で投げ飛ばされた。





おまけ打ち所が悪くミゲルは気を失い、気が付くと医務室のベッドで目が醒めたのだった。





「大丈夫?」





声のする方を見ると、ミゲルを投げ飛ばした本人が椅子に座りミゲルを眺めていた。





「あ・・・先輩」





ミゲルは慌ててベッドから起き上がろうとしたが、クラリと視界が歪んで再びベッドに倒れ込む。

は「ばかね」と呆れたように言うと、ミゲルに氷水の入った袋を手渡した。




それから自分が軽い脳震盪になったことと結局は3位だということを本人から直々聞かされた。




「ミゲル・アイマン、だっけ。年は?」


「17です。」



17ねぇ、と意味深長には呟く。




「センスは悪くないんだけどね。」


「そう、ですか・・・」


「そういえばミゲルってモビルスーツ戦4位だったよね。」


「はい!」



成績が良かったことよりも彼女が自分を覚えていたことに対してミゲルは嬉しそうに返事をすると

は17のわりに無邪気なミゲルがおかしくて笑みを零した。





先輩は何位でしたっけ?」




「1位よ」




が誇らしげに微笑むとミゲルは感心を越して唖然とした。

その細い体の何処にそこまでの力があるのか。






で良いよ、それに敬語は要らない。同期なんだしね」






そう言って笑ったにミゲルは憧れを超えて恋心を抱くようになった。






それからよく共に行動をするようになりアカデミーの間では付き合っているだとかありがちな噂さえ流れたが、

それがきっかけで二人はよけいに仲が良くなった。






そろそろ卒業を控えた頃、がデータ書類を持ってミゲルの部屋を訪れた。





「ミゲル!私、赤だって!」





嬉しそうには書類を見せるとそれに目を通したミゲルは驚いたような顔をしてからそれを祝福した。






「それにしてもすげぇな。ナイフ戦、モビルスーツ戦、射撃が1位・・・」





のあまりにも良い成績にミゲルは何とも言えない溜息を零す。



ナイフ戦、モビルスーツ戦、射撃、情報処理、プログラミングとほどんどのカリキュラムで1位を獲得し、

爆薬処理が2位、武術はやはり男女の体格の差か変わらず3位。


それとしても総合成績は当然の1位で赤服は確実、特務隊への配属も決まったらしかった。





「ミゲルはどうだった?」



「俺は緑。あと少し足りなかった」




がミゲルのデータに目を通す。

確かにギリギリ10位以内に入っているような感じはしたがミゲルの言う通りあと少し足りないようであった。





「ミゲルはモビルスーツが良いからザフトで昇格できるよ」



「だと良いけどな・・・」



「そんな落ち込まないの。同じ戦場なんだから」




「一緒に頑張ろう」と微笑むに険しい顔をしていたミゲルも表情が緩んだ。






ミゲルは卒業と共にモビルスーツ部隊への配属が決まり、緑服では極めて珍しいケースではそれを激励した。






「俺もすぐにの所に行くから」






ミゲルがそう言った途端は何処か悲しそうに笑ったが

その笑顔の理由も分からずに二人はアカデミーを卒業した。








やはり配属先が違うと会う機会はなくなり、こういう時のためにアドレスを聞いておけば良かっただの後悔をする。




戦場で敵を撃墜しある程度実績を残すと、様々な事において自由が聞くようになりミゲルはの状況を知るために少し無理を言い、ザフト軍のデータリストでを調べた。


が、不思議なことに卒業間近にから聞いた配属の隊もという人物すら存在しない。


まさか戦死したのかと一瞬疑ったが、軍のリストには戦死やMIAは残るはずであるし

仮に除隊したとしても軍の記録からある程度の個人情報が抹消されることはない。




他の艦の奴等や、卒業した同期の赤服たちからも情報を収集しが一向に消息は掴めなかった。








が姿を消して4年。


ヴェサリウスへの人事異動があり、そこで懐かしい姿を目にしたのだった。



ッ?!」



ミゲルが腕を掴むと彼女は驚いて振り向き4年前最後に見た哀しそうな笑顔では笑っていた。




会えた感動が大きかったもののミゲルの前にいるのはだがまるでではなかった。

またよけいに綺麗になって、そして少し痩せたというかやつれていて
活発なイメージのあった彼女は不気味なくらい物静かになり、

けれどもやはり容姿の故、ヴェサリウスでは昔ほどではないが噂になった。



もう一つ決定的に違うといったらアカデミーを1位で赤服として卒業したはずの彼女は

ミゲルと同じ緑を着ていて、MSに乗り大いに活躍をするはずの彼女はオペレーター配属となっていた。





それに「そうなのか」と納得できるはずもなくミゲルはクルーゼに理由を問い詰めたが
「彼女の意志だ」というだけで明確な理由は分からなかった。


しかしアカデミー時代モビルスーツ演習も最も得意とした

自らモビルスーツに乗ることを断ったという事実にミゲルはショックを隠せず物思いにふけた。



それからはミゲルの部屋を頻繁に訪れるようになり、そのうちにはミゲルに抱いて欲しいと懇願さえする。




憧れだった先輩が脆く壊れて崩れる姿を見るのは辛かったが

それ以上に何もかもがぼろぼろになった彼女を見ていられなくなったミゲルはを抱いた。


しかし4年の間何があったのかは何故か訊ねることができぬまま、複雑な思いで彼女を抱いたのだった。




毎晩の如くミゲルはを抱いたあと重苦しく特務隊を口にした。


するとは悲しそうに笑い




「私、人を殺せなかった」





と、ポツリと呟いてはミゲルの前で初めて声を出して泣いた。







は成績が良いあまりに特務隊の中でも特に最前線で戦っているという隊に所属された。

そこで見たのは戦争の汚い部分で、ミゲルたちように誰かを守る為の戦闘もそこでは民間人諸共を巻き込む虐殺行為で

女子供も老人も無差別に、降服した兵士さえも殺した、と。



守りたくて握った武器はただ人を殺す為の武器であったことを

攻撃の指令が出されてモビルスーツで撃破した場所には民間人としかいなかったことを

が初めての任務で殺した司令官のナチュラルには二人の子供と妻がいたことを。

残された彼らをザフトが捕虜として拘束し妻と子供は散々甚振られたと。

これが戦争だと解っていたけれど、そのうちに恐怖で武器を握ることができなくなり

人の血を見れなくなった時には既に人を殺すことができなくなっていたのだ。


最初はそれを隠して急所は狙わずに戦っていたもののやはりそれは続かず

初めて撃墜され右腕を失い、数ヶ月も意識が戻らなかったという。




はだんだん冷静になり泣き止むとすっきりした顔をしていてこの腕は偽物だと小さく笑った。






「軍、辞めなかったのか?」


「そうしたかったんだけど、深く首を突っ込んじゃったみたいで・・・」


「それでオペレーターに」


「そうよ、映像でならまだなんとか見られるから」




は大きな溜息を吐いた。





「アカデミーの成績が良くても人を殺せないじゃ意味ないわね」





皮肉の笑みを見せるとそれを辛そうに見つめるミゲルに気付きリリアは、やめてよ、と笑う。


そのがよけいに辛くて儚くて、ミゲルはを抱き寄せるとお互い熱を求めた。