ラスティ
「・・・ってば・・・」
「」
オレンジの少年は私の耳に直接吹き込むように甘く
けれども腹立たしさを含むように私の名を呼んだ。
「あ・・・ごめん。何?」
一瞬、ゾクリとして弱い電流が身体を流れた気がした。
それをラスティに察知されないように
曖昧に笑ってラスティを見ると彼はいかにも不機嫌そうに目を細めていた。
「コーヒー持ってきて」
「わかったわ。」
は余韻が残っただるい身体を起こしてキッチンへ向かう。
換気扇を回し煙草に火を付けると煙草を咥えたまま器用にコーヒーを炒れる。
ラスティはの背中を見つめながら、苛立たしそうに溜息を吐いた。
「ちょっと!俺の部屋で煙草なんか吸わないでよ!」
「あ、ごめんね。ラスティって煙草駄目だっけ?」
そう言いいながらはコーヒーをカップに注ぎながら灰を掃った。
「駄目じゃないけど部屋が臭くなるから嫌なの!」
ああ、とは苦笑する。
「も煙草吸うのやめれば?だからその年になっても結婚できないんだよ」
「嘘。関係ないわよ。」
「16で婚約者がいるご時世なのにさ。」
ラスティはコーヒーを炒れ終えて戻ってくるを眺めた。
「そんなの一部の人間だけ。ラスティみたいにね。」
うけ皿に乗せられたスプーンがカップとあたってカチャカチャと音を起てる。
カップの中のコーヒーが大きく揺れた。
「はい、ラスティ」
ラスティの前にコーヒーを置こうとするの手が慎重になりすぎて震えているのが分かった。
「大体、が煙草吸う自体おかしいんだよね」
ラスティがガチャガチャとスプーンでコーヒーを掻き混ぜながらを見上げる。
「それ偏見よ。女だって吸うわ。」
は小さく笑ってコーヒーをすすった。
「そういう意味じゃなくて!って綺麗なんだから・・・」
「綺麗な人間は煙草吸っちゃ悪いって?」
ラスティをからかうようにケタケタと笑う。
そんなを見てラスティは拗ねたように頬を膨らました。
「ってばよく飲めるよねブラックなんか」
ラスティが冷めかけたコーヒーをごくごくと飲む。
「ラスティが甘党すぎるのよ。カフェオレ作ってあげたのに」
「ほっといてよ。俺はコーヒーが飲みたいの」
「それはコーヒーって言わないの」
はカップを口の前でとめてクスクスと笑った。
「」
ラスティが恨めしそうにじろりとを睨む。
「ラスティ」
「俺、が好き」
「私もラスティが好き」
「嘘吐き」
の目を真っ直ぐ見て言い放たれた言葉は冷たくも
何処か辛そうで、は困ったように笑った。
今にも泣き出しそうなラスティをあやすそうに
はもう一度同じ台詞を繰り返す。
「いつになったら俺を見てくれる?」
純粋に訊ねるラスティから逃げるように煙草を拭かす。
「わからない」
「俺から逃げないでよ」
「逃げてない」
「逃げてる」
を視界で捉えて放さないラスティに観念したように
ゆっくりと言葉を紡いだ。
「苦手なの。ストレートなのは」
「なにそれ。じゃあ俺も捻くれれば良い?」
「そうじゃなくて・・・」
はまた、困ったようにけれども淋しそうに笑った。
「私は傷付けるから、深入りしないほうが良いわ。」
の言葉にラスティはなにそれ、と顔を顰めた。
「じゃあ私そろそろ勤務時間だから行くわね」
「次はいつ会える?」
「そうね。なかなか時間合わないから・・・」
「ちょっとでも時間が合えば俺が行くよ」
それでも尚、強情なラスティには笑って小さく頷くと
またね、と小さく手を振った。
がいなくなった後、ラスティは枕に顔を埋めて溜息を吐いた。
俺を傷付けるのがなら
むしろどんな痛みも受け入れられるのに。
「俺って大切にされてるのかな」
「たぶん、頼られてないんだよね・・・」
自分の無力さと脱力感に襲われながら
部屋に残った微かな煙草の匂いが鼻を掠めると
ラスティは安心したように眠りについた。