「ところで、大事な話って何?」
先程までの行為を物語るように皺になった白いシーツを纏って
は部屋に呼び出された肝心の理由を問うと
ラスティはきょとんとした顔をして、
ああ、そうそうと理解したように笑った。
「」
自分の名前を呼ぶ爽の声にくらくらして、
は、酔ったような表情でラスティを見た。
「ミゲルとヤッてるでしょ」
立ちくらみみたいな感覚がした。
"浮気してるでしょ"というのは慣れてるが、これには一気に血の気が引いて、嫌な汗がつ、と流れた。
もし今、自分の顔を見ることができるならばきっと青褪めて、間抜けな顔をしているのだろう。
「何言ってるのよ」
表面上では、できるだけ笑って分からないふり。
「だーかーら、ミゲルとこういうことしてるでしょ!」
笑っているけれど、獲物を捕らえるように真っ直ぐを見て同じ質問を繰り返すラスティ。
ねえ、とまた上の台詞。
もはや問い掛けではなく、事実を元に確認を取っているように聞こえた。
「年上をからかうもんじゃないわよ」
自分を必死に取り繕う。
なるべく笑ってそれをラスティに察知されないように。
じり、とにこにこと笑って詰め寄るラスティに殺気を覚ええると無意識に後退りする。
背中が冷やりとして、それが壁だと認識するとはごくりと息を呑んだ。
「ミゲルとこういうことしてるのか聞いてるんだよ」
肩を掴まれ強引にキスをされたかと思うと、ラスティはの髪を掴み強引に引っ張った。
「痛ッ」
気付いてないとでも思った?とラスティが耳に直接吹き込むように囁くと
絶望感と快感に似た感情で上手く思考が働かず、話すことすらままならなかった。
「ま、そういう事。」
ラスティはそんなと付き合いだしたのも身体が最初だったし、そういうタイプの人間なのかなって思ってちょっと調査したんだ」
「俺、情報処理とか情報収集得意だから」と楽しそうに話すラスティには軽い頭痛を覚えた。
「そしたらまあ、ってスゴイんだね。俺以外にミゲルやディアッカまで」
ラスティは呆れたようにを嘲笑した。
「正直そういう心配はしてたんだけど、まさか付き合った後も切れてないなんて」
思わなかったなぁ、と残念そうな表情を見せたラスティはいかにもそれを愉しんでいるようだった。
「俺らを誑かして良い度胸だよね。」
その言葉とは反対に笑うラスティは無垢な笑顔を見せた。
「俺たちみたいな金持ちばっかと寝て、は何がしたいわけ?」
ラスティの言葉にはかっとなって怒鳴った。
「業と金持ちばかりと寝てるわけじゃないわよ!」
「でも実際そうでしょ?ミゲルもディアッカも」
言い返すことができない事実には唇を噛み締める。
「何が目的?単純にお金?それとも権力?」
更に追い討ちをかけるように言葉を紡ぐラスティに絶望を感じた。
口を動かすだけで声が出ず、次第に目が熱くなった。
を見下ろす笑顔のラスティは何を考えているかさっぱり分からなかったが
かなり怒っていることだけは理解した。
ラスティはベッドの傍に掛けてあった赤服を羽織ると部屋のドアに向かった。
「何処行くの」
「ミゲルとディアッカにけり付けてくる。」
に背中を向けたまま言い残して出て行ったラスティに、嫌な予感がして急いで服を着るとラスティの後を追った。
クルーゼ隊、ザフトレッド以外使用することのない会議室。
ドアを開けると、すぐにラスティの姿が目に入って以外にも本人は落ち着いていたのにほっと胸を撫で下ろした。
が冷静になった瞬間、次に目に入ったのはミゲルとディアッカで
その場に鉢合わせてしまったような雰囲気のイザークとアスランも、
この状況を理解しているようで気まずい空気が流れた。
やはり最初に沈黙を破ったのはラスティで、「やっと来たね」と何事もなかったかのような笑顔を見せた。
これで本当に何事もなかったことになれば良いというの願いは瞬く間に裏切られた。
「散々やっといてその顔はないっしょ。もっと普通にしたら?」
ラスティは意地悪そうに口元を吊り上げて僅かに目を細めて笑う。
「・・・ラスティ」
「そんな辛そうな顔しないでよ。そういうことしてた癖に普段はなんともなかったでしょ」
ラスティの遠慮も同情もない言葉にディアッカが溜息を吐くと罰が悪そうに口を開いた。
「だから、俺らも悪かったって・・・」
「ディアッカとミゲルは良いんだよ。問題はこの女!」
そう言って顔を顰めると頬を膨らませてを指差した。
「ごめんなさい・・・」
「ヤメテ。謝らないでよ」
「傷付けるつもりじゃなかったの」
その言葉にラスティまさか、と鼻でせせら笑う。
「傷付いてないよ。ただがむかつくだけ。ちょっと綺麗だからって何しても赦されると思った?」
確かにそういう甘い考えはあったが、こんなことになるためにしたのではない。
こんなことをしておいて説得力もないが、ラスティには本気だった。
「俺もみたいなタイプだけど、は本気だったよ」
にっと意地悪く笑うラスティは何処か悲しそうで、はズキリと胸が痛んだ。
一瞬を見つめるラスティの視線が穏やかになったを察すると
私の予想は正しかったのを思い出した。
きっと彼は優しくて赦してくれる。
しかし優しく微笑んだラスティから発せられた言葉はあまりに酷くを傷付けた。
「綺麗な容姿に惹き付けられる人柄。惜しいのは一般人ってことかな」
はすぐに理解した。
きっと私は彼と自分のその差を埋めようと必死になっていたのだと。
その反動がこの行為だったのだ。
彼と対等でありたかったあまり、裏目に出てしまった。
ああ、そうか。
馬鹿なことをした。
は自分への皮肉の笑みを漏らすと、後悔が込み上げた。
頬を伝って零れた涙のわけにラスティははっと理解したような表情を見せて、
何か言いかけた瞬間、は笑って聞こえるか聞こえないか程の小さな声で「ごめんね」と呟くと部屋を飛び出した。
結局それから一週間が経ちはラスティと何もないままプラント行のシャトルに搭乗しようとしていた。
は既に軍服を着ていなかった。
「おい、待て。」
まさに乗り込もうとした時、思ってもいなかった人物の声がを呼び止めた。
「イザーク」
「何処へ行く気だ?休暇はもらっていないはずだが、まさか除隊したわけではないだろうな」
はそのまさかだと言わんばかりに困ったように笑った。
「・・・ラスティは?」
「いつも通りだ。」
その返答に少し寂しい気がする。
「お前がここまで腰抜けだとはな。こんなことで除隊するとは流石一般人だ」
嫌味たらしい言い回しには苦笑いすると、ふと思い出したようにイザークに尋ねた。
「そういえばイザークは何であの時、私を抱かなかったの?」
の質問に一瞬、イザークは僅かに驚いた表情を見せるとあの時を思い出したように眉間に皺を寄せてふんっと鼻を鳴らした。
「貴様の過去に何があったかは知らないが、俺は悲劇のヒロインを演じているような女を抱く趣味はない」
それだけだ、とから視線を逸らした。
は驚いた顔をして、そうかもねと小さい笑いを零した。
「それにしても遅いな。いつまで足止めをさせる気なんだ」
苛々したイザークの言葉にが不思議そうにきょとんとした瞬間、格納庫に懐かしい声が響き渡った。
「!」
「ッラスティ・・・」
「除隊するなんて聞いてない!」
「ごめんね、いきなりで」
の目の前に緑の軍服が差し出された。
「え・・・?」
「許してほしかったらZAFTに再入隊して。」
驚いて視線を戻すと、ラスティはいつものように無邪気に笑っていた。
「逃げるなんてもっと許さないから」
そう言って優しく笑ったラスティには無意識に手を伸ばしていた。
ラスティを抱き締めたときには顔は涙でぼろぼろで、そんなには敵わないから。でももうしないでね。俺も辛いから」
を抱き締める腕に微かに力が篭ると、もラスティを強く抱き締めた。
「仲直り?」
「そうね」
は照れたように笑うと、少し背伸びをしてラスティの唇にキスをした。