「は俺のこと嫌いなの?!」
「だからそんなこと一言も言ってないじゃない。」
「だったら何で?!」
「いくら恋人でも踏み入れて欲しくないプライバシーはあるのよ」
その自分の言葉を後悔したのは数秒後で、その時には彼は既に部屋から走り去っていた。
ラスティの部屋に食堂に、ヴェサリウスのコックピットや会議室。
様々な場所を隅々まで捜したが、すぐに見つけられるはずの目立つオレンジ髪の彼は
捜しているこちらが不思議になるくらい上手く目を晦ませる。
休憩室のドアの手前で一瞬立ち止まり、いますように、と一呼吸置いてドアを開けたが
ぱっと目に入ったのは金髪とプラチナ、紺だけだけで彼の色がないことに肩を落とすと彼らへと歩み寄った。
「ラスティ、何処か知らない?」
がディアッカに問いかけると、二人の状況を知っているように引き攣った笑顔を見せた。
「さっきまで此処にいたぜ」
「そうみたいね。ラスティから聞いた?」
「ああ、、ラスティにプライバシーに踏み込むなとか信じてないとか言ったんだろ?」
ディアッカの言葉には苦い顔する。
喧嘩の断片を簡潔に彼らに話してくれたお陰で、彼らが私を見る視線はまるで軽蔑するようなものだった。
それにプライバシーに踏み込むなとは言ったが、信じてないとまでは言っていない。
そこはラスティの感情部分だろう。
「にどんな過去があったかは分からないけどいい加減ラスティに話してみたら?」
ラスティは恋人なんだし、と強情なを宥めるようにディアッカは言う。
確かにディアッカやイザークがを深く追求しないのは友達であるからで、
が過去を露骨に隠そうとしているのを察して友達であるからそっとしておいてくれるのだ。
ラスティは一応の恋人であるし、を心配して追及するのも分かるし
自分の立場が不安でやたらと過去を知ろうとするのも分かる。
それでもラスティに過去を話さないのは、彼の言う通り自分がラスティを信じていないからかと理解する。
「も知ってるだろ?」
アスランは呆れたように溜息を吐くとワンテンポ置いて言葉を続けた。
「ラスティは感情的で、所々馬鹿みたいに純粋で、傷付きやすい。」
それくらい分かるだろ、とアスランは再度溜息を吐く。
「でも、」
と言いかけるとイザークは眉間に皺を寄せて苛立たしそうに口を開いた。
「貴様もだ。年のわりに頑固で馬鹿みたいに意地を張る。」
「意地張ってるんじゃないわよ」
「じゃあ何なんだ。」
「知られたくない過去くらいあるでしょ?知られたくないこととかね」
「だからなぜラスティに隠す必要がある」
そう言われは複雑そうに視線を落とすとイザークは、それを意固地と言うんだと不機嫌そうに呟いた。
「でも、話したところで何にもならないじゃない。」
が表情を曇らせてぼやくとディアッカは「そこまでの過去なのか?」と半ば訝しがって笑った。
「まあ、ラスティに話したところで変わらないのは確かだな。」
「どういう意味よアスラン」
「ラスティはをどうにかしたいとかじゃなくて、ただ単にの何かを話してほしいだけだろ。」
アスランの言葉には胸が痛んだ。
「だからその過去を話したくないなら話さなくてもいいし、それなら何か他の過去から話してみたらどうだ?」
はそうか、という顔をするとすぐさまもう一度彼らにラスティの居場所を訊ねた。
アスランは微笑んで「ジンのコックピットだ」と答えるとは笑って礼を言いと休憩室から走り去った。
もう入るはずのなかったコックピットを前には息を呑むと足を踏み入れた。
懐かしい風景に見とれながら心がズキリと痛む。
思い出される恐怖で心拍数が上がるのが分かった。
「ラスティ」
呼びかけてもシートに座るオレンジ髪の少年の反応はなくは小さく溜息を吐いた。
「ごめんね。でもやっぱりあの過去は知られたくない。」
その言葉にラスティが僅かに肩を落としたのを察知した。
「けど、いつか絶対話すから。だから今回は我慢してね」
は優しい口調で言うと、ラスティが座るシートに凭れてシート越しに話を始めた。
「私、ミゲルと同期でアカデミーを卒業したの。アカデミーの成績は1位で、私は特務隊に所属した。」
得意な科目はモビルスーツ戦とナイフ戦と射撃で、苦手だったのは体術。
アカデミーではミゲルと一番仲が良くてよく二人で抜け出しては教官に叱られた。
いろいろと話し、他に何があるかと考え始めた時
頭のすぐ上に気配がして話をやめて上を見ると瞬時に目の前が真っ暗になった。
ラスティにキスをされたのだと分かったのは、彼が唇を離した後で
嬉そうにけれども哀しそうに微笑むラスティに見とれた。
その後、ラスティは大人しくコックピットから出るとを抱き締めて「ありがとう」と囁いた。
「じゃあ、俺に射撃教えてくれる?苦手なんだ」
ラスティにそう言われは少し戸惑い、いいわよと頷く。
「それとプログラミングもできたら教えてほしいな」
そう言って笑うラスティに、それでよく赤になれたわねとも笑ってラスティの髪を掻き混ぜた。